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食品期限の「安全係数」とは?-変わりゆく基準と企業がとるべき対応-

コラム

食品のパッケージには「賞味期限」や「消費期限」といった表示が必ず記載されています。これは、私たちが食品を安全・安心に口にするための大切な目安です。しかしこの期限は、実際の食品の品質保持期間をそのまま表したものではなく、「安全係数」と呼ばれる調整が加えられていることをご存じでしょうか。

本記事では、この安全係数の基本的な考え方と、今後変わりつつある賞味期限表示のルールについて分かりやすく解説します。

 

 

安全係数とは何か?品質劣化リスクへの“バッファ”

賞味期限とは「定められた方法で保存した場合に、食品が美味しく食べられる期間」のことです。
たとえば加工食品やスナック菓子など、比較的劣化の遅い食品に設定されることが一般的です。

その賞味期限は、食品メーカーが行う保存試験をもとに「科学的にいつまで品質が保たれるか」という実データを取得し、その結果に一定の余裕(バッファ)を加えて設定されます。これが「安全係数」です。

たとえば、ある食品の保存試験で100日間品質が保たれると確認された場合、安全係数として0.8を掛けて「賞味期限80日」と設定するような形です。これは、消費者が不適切な保存(高温多湿な場所での保管など)をしてしまった場合にも安全性を確保するための措置です。

一般的に、この安全係数は食品の種類や包装形態、製造ロットのばらつき、流通環境などを踏まえて、0.7~0.9程度の範囲で企業ごとに設定されています。

出典:消費者庁「食品表示基準Q&A」(2025年3月28日消食表第290号)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/food_labeling_act/assets/food_labeling_cms201_250328_1030.pdf
図(期限(消)-2)

 

 

食品ロス削減の観点から見直しの動き

こうした安全係数設定が、食品ロスの一因になっているのではないか、という指摘が近年強まっています。まだ十分に食べられる食品が“期限切れ”として廃棄されてしまうケースが多く、特に小売や外食業界からは「実際の品質保持期間と賞味期限が乖離している」という課題が挙がっていました。

こうした背景を受けて、2025年3月末、消費者庁は「食品期限表示に関するガイドライン」を公表しました。このガイドラインでは、賞味期限の設定における安全係数の考え方や、より合理的な表示基準の見直しについて提言がなされています。

 

 

ガイドラインの要点

今回の消費者庁から公表されたガイドラインでは、以下のようなポイントが示されています。

 

1. 安全係数の見直し

従来の食品表示基準Q&Aでは、安全係数の目安として「0.8以上」が示されていましたが、今回のガイドラインではこの数値基準が削除されました。代わりに、食品の特性や製造・流通環境に応じて、適切な安全係数を設定することが求められています。例えば、加圧加熱殺菌されたレトルト食品や缶詰の食品など、品質のばらつきが少なく安全性が担保されている場合には、安全係数を設定する必要がないとされています。

 

2.「食べることができる期限」の情報提供

賞味期限を過ぎた食品について、定められた保存方法を守っていた場合にまだ食べられる可能性があることを、消費者からの求めに応じて情報提供することが望ましいとされています。これにより、消費者の理解を深め、食品ロスの削減につなげることが期待されています。

 

表示例:

○消費期限(期限を過ぎたら食べないようにしてください。)
○消費期限:和暦(西暦)○年○月○日までに食べきってください。
◎賞味期限(おいしく食べることのできる期限です。)
◎賞味期限(期限を過ぎても、必ずしもすぐに食べられないということではありません。)
◎賞味期限(おいしく召し上がっていただくための目安です。)

 

 

企業側に求められる対応とは

このガイドラインが法的強制力を持つものではないにせよ、食品事業者にとっては大きな転換点となり得ます。従来型の“慣習的な係数設定”から脱却し、根拠のある期限設定が求められるようになるでしょう。

 

たとえば、

・保存試験データの可視化と長期蓄積
・製造ロットのばらつき管理と分析
・温湿度ロガー等による流通環境のモニタリング

といった仕組みづくりが、今後の賞味期限管理の信頼性を支える鍵となります。また、AIやIoTによって、リアルタイムで食品の状態を監視する技術が普及すれば、画一的な安全係数に頼らずに「動的な期限管理」が可能になる時代も近いかもしれません。

 

 

まとめ

賞味期限の安全係数は、食品の品質と消費者の安全を守るための基本的な概念ですが、今まさに見直しの局面を迎えています。食品ロス削減や消費者の正しい理解促進、さらには企業のブランド価値向上の観点からも、「科学的根拠に基づく合理的な期限表示」は今後のスタンダードとなるでしょう。

企業としては、ガイドラインの動向を注視しつつ、自社の品質管理体制や表示基準を柔軟に見直すことが求められています。制度が本格的に変わるその前に、先手を打って備えることが、競争力の強化にもつながるのではないでしょうか。